藤野合宿03
合宿リポート Y.MAMIYA
2003年度


【創作記録 『魍魎の匣』】
・テーマ「差異」
・タイトル『魍魎の匣』 (京極夏彦作)
・グループメンバー 上田祥一(リーダー)、後藤愛子、間宮結、多田文子

 今回テーマが「差異」という事で、私の中で「差異」を「自分の内と外の違い・ 隔たり」と定義した。それにはタイトルとして京極夏彦の小説「魍魎の匣」がち ょうどよかった。以前一読した時に、このテーマのような印象を持ったからだ。 (といって、小説の内容がそのもの、というわけではなく、私の「感想」のような ものがそうだった。)そこから、  

■外側=体の外側を作る箱→容姿など        
心の外側を作る箱→体面や人によく思われたいと思う心  

■内側=本音、本心、妬みや嫉みといった醜い感情、心の弱さ等。(これには 自分で自覚しているものと、無自覚なものがある。)  

 と、連想していった。嘘つきや見栄っぱりでなくても、誰でも自分を「いい人 間」と見せたがるし、例えば異性には好かれようと多少の虚飾をする。そうい う事は誰にでもある事で、どこまでも真正直な人間がよいとはいえないと思う。 それでも尚、時として人が苦悩し、苦しまなければならないのは…本人が無自 覚なままに心の奥底に隠してしまう、こうした負の感情が原因なのではない か?それこそが「魍魎」なのではないか?と思うに至った。

それを隠すために人は外見を飾り、心にもない事を言ったりする。でもそれは 「醜さを隠す」ためだけではなく、「自分の心の最も弱い部分を守る」ためでも あるのではないだろうか?人が「体」と「心」という二重になった箱の中に魍魎 を飼って生きているのだとしても、魍魎=悪ではない。箱は内側の物を見えな くするためだけでなく、護るためにもあるのだから。「内側」は痛くてとてもデリ ケートな部分なのだ。  

それらの事を現すために、曲を2曲組み合わせ、最初は「外側」=他人によく 見えるもの、心地よく思えるものを、後半は「内側」=自分自身でも隠しておき たいと思う見にくいもの、弱いもの、を現そうと思った。また、個人的に私自身 が「言葉で何かを現す」という事に執着しているので、テキストも自分で考えて 作ってみた。

結果としては、「やろうと思った事」と「出来た事」との間には大きな隔たりがあ った。特に「動きと言葉」を同時に表現する事は今の私にはとても難しい。そ れでもやはり私は言葉を捨てたくはなかったし、今回は「上手に出来ること」よ りも「自分がやりたいと思うこと」を出来た、という点ではよかったと思う。「やり たい事」と「出来る事」の隔たりが今後の課題である、と自覚出来たからだ。ま た単純に。最初から全部自分で組み立てて作る、という行為が始めてだった ので、楽しかった。

※使った台詞 「子宮という箱の中から出たと思ったら、そこはやっぱり箱だっ た  体という箱の中に、人はもう一つの箱を作る  他人という名の裁定者か ら身を守るために  それは生きた分だけ分厚く頑丈になり  今となってはも う、中に何が入っているのかも思い出せない  箱の中には愛しく、そして醜い モノが  開けてはいけない、それは、パンドラの匣だから 」



上田チームグループ発表の記録 

それぞれが持ち寄ったものを、当日発表される4人のチームで発表する。私 のチームは最初、後藤さんしかおらず、二人で持ち寄ったものを並べて色々 プランを考えた。その後に上田さんが合流、私たちの考えたプランを話し、意 見やアイデアを入れて貰う。最後に多田さんが合流し、更にプランを膨らませ た。こうして、段階を経て少しずつ膨らませていくやり方に図らずもなった事 が、スムーズに創作を行えた一つの要因であるように思う。(出来の如何はと もかく。)

私たちは、それぞれのパートは各人に任せ、広いスペースの空いた部分を邪 魔にならない形で他の3名が埋めようと考えた。邪魔にならないように、とはい っても、時として3人は1人に干渉し、その人の世界を補完してゆく。また、後 藤さんからは「自分のパートの部分で3人に協力して欲しい」と、あえて3人が 干渉する方法も提案された。3人が「嫌いだ!」という言葉を発し、それを後藤 さんが受けて自分の中に溜めてゆくシーンだ。これはすごくかっこいいシーン だったと思う。

最後は藤野在住の音楽家室坂京子さんに打楽器を叩いて貰って、4人それ ぞれが思うように動きまわる、というシーンを足した。4人の持ち寄ったものを 並べてみたら、けっこう皆「静」の動きのものが多かったし、最後に「プロロー グ」的な場面があった方がよい、と思ったからだ。このシーンは、よかった悪 かったというより、とにかく楽しかった!「他の場面が『静』なので『動』の音を 入れてください。イメージはアフリカの原住民みたいな感じ」と事前に即興演奏 の室坂さんにお伝えしてあったが、正にそんな感じの音で、私たちはその音を 体内に取り入れて、それぞれがそれぞれの「動」を出して思う存分暴れ回れた と思う。観客の立場から見てどうだったかは分からないが、やっていて一番楽 しいシーンだった。




合宿全体の感想

参加する前は「体力的についていけるだろうか…」と不安だったが、思ったよ り自由な時間も多く、のびのびと出来て、終わってみれば大変楽しかった。

その「楽しさ」の中には単純に「楽しい」という事の他に、始めて創作をやって みたり、いろんな人とファリファリをやってみたり、そういう「普段出来ない事を 出来た面白さ」のようなものももちろんある。私は随分大人になってから突然 演劇を始めたので、若い人たち、若いうちから演劇を志している人たち、を間 近で見るのは面白い。「へぇ〜、そんな事をやってたんだ…」とか思ってみたり して。最後、根岸さんの酒の強さが妙に印象に残る合宿だった。    


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